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真白な午後


 後ろの窓からの光を受けて、栗色の髪はより明るく、鳶色の瞳は琥珀色に見えた。白い肌は光を受けてより白く、益々その人を人形めいたものに見せる。



 何を考えて居るのだろう



探偵の机に座って、机にその長い足を投げ出している。どこか浮かない表情・・・というよりは面白くないと言った表情だろうか。


 僕と一緒じゃあ面白くないですか



探偵は「和寅」と言うとすかさず僕は

 「和寅さんは買い物に行きましたよ、あんた見て居たでしょうに」

ああ、そうだったかなあと気の無い返事を返す。探偵閣下にしては静かな返しだ。

 「ふうん」

と、何を納得したのか分からないような声をだし、机の上に置いてある手紙の束をつまらなそうに見て居る。探偵宛に届いた彼のファンレターと言うものらしい。

いつもならとっくにどこかに出掛けて遊びに行って居るであろう、この主は何故か事務所に居て、大きな欠伸をしている。



 僕と居るとつまらないですか



 「いたっ!」

益田は探偵の上げた声に驚いて眺めていた新聞を投げ出し、ソファから立ち上がる。

 「どうしました?榎木津さん」

榎木津は眉を潜め、己の掌をもう片方の手で押さえている。指の隙間から、ポタリと紅い雫が落ちた。

 「ああ、指切っちゃったんですね」

見るとナイフが机の上に置いてある。ペーパーナイフでは無く普通のナイフだ。これで封筒の封を切ろうとしたのだろう。

 「見せて下さい」


 

 余りにも迂闊だ、せめて鋏で切ればいいのに。



陶磁器の様な指に、華やかな紅い牡丹の花が咲いたかの様な色合いに惹かれて益田はそれに口付ける。

 「んっ・・・」

口の中に広がる血の味。

普段は人を殴ったり、投げ飛ばしている手なのに酷く繊細な形をしている。

細くて、白いそれを彩る創を舐める。

 「あ、マス・・・ッ」

 「こんな創を付ける程」

 

 

 何を考えて居たんですか、あんた



問いながら舌を這わせる。

 「痛い」

創の部分を舐め、指の股に舌を這わせ舐める。一つ一つ。

 「言って下さい、何を」



 想っていたんです



掌を舌で舐め上げ、手首まで到達すると、手首に口付ける。

 「マスヤマ・・・ッ」

恭しくシャツと手首を両手で包み込み、益田はその部分を、こつんと額に当てた。

 「ごめんなさい、直ぐに手当てをしますね」

長い前髪が邪魔をし、その表情を観えなくする。

益田は、救急箱は何処だったかなと言いながら和寅の部屋へと入って行った。


 榎木津は茫然と己の創を眺めている。


 「馬鹿ッ、お前の事だッ」

と呟いて赤くなった顔を見られまいと後ろを向いた。




   日本一馬鹿な下僕に悟られぬように




                                                完












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益榎 | コメント(0) | 2018/11/21 13:25
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