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マシュマロ 1話

 一通り書類の整理が終わり、薔薇十字探偵社の探偵助手、益田龍一は事務所の時計を見る。---午後十一時を過ぎた所である。秘書件給仕(探偵のお守役でもある)安和寅吉は早々に自室へと引っ込み、寝てしまったようだ。
ちらりと益田は正面を見る。ここの主である探偵の榎木津礼二郎は「探偵」と書かれた三角錐の先端を指先でつんつんと突つき乍ら大きな机の上に洋酒を並べて物色している。その後ろ姿に益田は躊躇いがちに声を掛ける。
 「あのう・・・」
 「んー?」
なあに?と振り返った西洋陶磁器人形の如き整った容姿にどきりとする。
 「い、いえ、その・・・」
ああ、とその大きな鳶色の瞳を益田に向けると
 「何だ!お前も飲みたかったのか、そうか、そうなんだな、よし、グラスを二つ持って来なさい、水もね。あと、氷も買って来てあるから持って来るように!ゴキブリ男は寝てしまったのだからお前が用意しなさい、マスカマオロカ。」
 「はあ・・・」
酒を飲みたかったわけではないのだけれども。
 「早くするッ!」
 「はいはい」
慌ててお勝手に入り用意をする。水差しと氷入れを探しながら溜息を吐く。---まあ、帰るつもりじゃなかったのだし、あの人の酒の相手をするのも悪くない。本音を言うと下心たっぷりなのだ、こっちは。
もしかすると酒の勢いでご寝所に招いてくれるかもしれないというあり得ない妄想までしてしまっている。
 「馬鹿オロカまだか」
 「はいはい、用意出来ましたよっと」
いつもの幇間振りを発揮しながら盆の上にグラスと氷入れと水差しを乗せて探偵の机の上に置く。
うむ。と、腕を組み仁王立ちで榎木津は満足そうだ。
 「よし、では神自ら作ってやろう、ウイスキーの水割りでいいな?有り難く思いなさい」
 「有り難く頂戴致しまーすッ」
と調子に乗って益田はグラスを差し出した。榎木津はグラスに砕いた氷を入れ並べてある洋酒の一つを手に取って封を切ると中身をドバドバと注ぎ、更に水を注ぐ。乱暴だ。グラスから溢れて机の上が濡れた。
 「さあ、飲め」
グラスに目一杯注がれた水割り(ウイスキー7・水3の割合)を受け取ると
 「頂きます」
と溢し乍ら飲んだ。酒には強い方だが、喉が焼けそうに濃ゆい度数の酒に益田は閉口する。
 「どうだ、旨かろう!」
 「いやいや、きついですって、これならロックで飲んだのと変わらんですよ」
 「何だ、文句を言うな、さあ、乾杯だ」
榎木津は自分の分を先程と同様にグラスに溢れ返る程酒を淹れて溢し乍ら益田のグラスにカチンとぶつける様に乾杯をしたものだから床にぽたぽたと酒が零れる。
滅茶苦茶だ。そう思いながらも美味しそうに酒を飲み、その白く細い首筋に視線を送る。
ぷはあ。
 「うんまいっ」
とにこにこと笑う榎木津を見て少し視線を逸らす。---何、この可愛いおじさん
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益榎 | コメント(0) | 2018/08/12 14:34
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