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僕の可愛いおじさん 最終話

榎木津が外套を羽織ると益田は布団から慌てて飛び出し榎木津に追い縋る。
 「か、帰っちゃうんですかぁ!」
 「だってお前元気だろう、僕が居る必要無いじゃないか、そうだろう?」
榎木津は半眼になって益田の鼻を抓む。
 「いてて」
 「だから帰る、馬鹿は風邪をひいても馬鹿だという事がわかったしな」
 「酷いなあ、病み上がりなんだからさっきみたいに優しくしてくださいよ」
 「何が優しくダ!優しくしてもらいたい奴がいやらしい事するか!」
フンと扉の前に向き直った。益田はふふっと笑う。
 「今日は有難うございました。僕一人じゃ今頃くたばって居ますよ」
榎木津は後ろを向いたまま
 「当然ダ!僕は神だからな、下僕や吊り目の一人くらいは余裕で救える」
そう言って外に出て扉を閉めた。
帰ってしまった。寂しかったが、布団の温もりを、榎木津がここに居たという証し探りながら布団に潜り込む。
ほんのりと榎木津の香りがする。
 「うふふ、可愛かったなあ、おじさん」
今日一日を反芻しながら枕を抱く。裸にエプロン姿の艶めかしい榎木津の姿が思い起こされて、甘い疼きが何度も襲った。
明日は事務所に行けるだろう。


翌日、午前中の内に病院へ念の為に行って来た。若さのせいもあってか風邪は殆ど治りかけている状態だと診断された。
薔薇十字探偵社への道のりは軽く感じられた。御影石の階段を駆け上がり、益田は元気一杯に扉を開く。
 「おはようございます」
カランとベルが鳴った。---しんっとしている。
 「あれえ?誰も居ないんですかあ」
探偵は兎も角、和寅も居ない。益田がうろうろと事務所内を不思議に思って歩いていると、やがて和寅が寝起きしている和室の襖が開いて和寅が出て来た。
 「あっ、和寅さんおはようございます」
和寅はじろりとその大きな目で益田を睨み付ける。その額には濡れ手拭いが乗せられている。
 「何が、おはようございますだね、益田君、君ねえ、先生が君の所へ行ってから、帰って来た時にお風邪を召していたんだよッ、お陰で私にまで移ってしまってこのざまだよッ!」
と、風邪ひき声のガラガラ声で言われた。
 「えっ、えええっ!」
 「私や、先生の風邪が治るまで君一人で事務所を切り盛りしたまえよ。私は部屋で休むから。---全く君は何かよからぬことを先生にしたんじゃないだろうね」
益田は視線を逸らし
 「はっはははは、やだなあ和寅さん、そんな事」
しました。と心の中で呟いた。和寅にじっとりと睨まれて
 「全く、お止めしておけば良かったよ。先生が君の下宿に行くと言い出した時にね」
え?
 「和寅さん、昨日出掛けていたんじゃないんすか?」
 「何言ってるんだ、昨日は私ァずっとここに居たよ」
じゃあ、元々和寅さんに僕の様子を見に行かせるつもりなど無かったという事か。
 「え、榎木津さんの看病は僕がします」
 「そうしてもらえるとありがたいね、全く君のせいだよ、大体毎日一緒に居るのだから、私にも移るとか考えないかねえ」
和寅はブツブツと文句を言いながら自室へと引っ込んでしまった。その後ろ姿を見ながら
 「そうだ、榎木津さんッ」
慌てて榎木津の自室の自室へと向かうと幾分頬の高揚した榎木津が寝台で眠っていた。

 「馬鹿の風邪を貰ってしまったぞ」
そう言う榎木津と和寅の看病をし乍ら、益田はその日一日結局は事務所に泊まり込む羽目になった。
不味いと言われたお粥の残りを晩御飯替わりに食べ乍ら、益田はそれでも何だか幸せだった。
何だか今回は逆に榎木津を気使う旦那の様な気になってしまっている。(和寅の事は置いといて)

 「榎木津さんが治ったら、又、エプロンを付けてもらって・・・無理か?」
いやらしい事を考えていると和寅の部屋から
 「益田くん、水がないよ、水!」
 「ハイハイ、待ってくださいよ」
と腰を上げた。


                                                                          完
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益榎 | コメント(0) | 2018/10/22 11:33
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