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マシュマロ 4話

今田、と名乗った婦人は鞄から何やら取り出した。写真だ。テーブルの上に差し出された写真の人物は眼鏡を掛けた、実直そうな男性が写っていた。年の頃は四十過ぎくらいか。
 「主人です。」
 「はあ。」
今田勇ーーーとご主人の名前を告げた。それっきり今田夫人は黙ってしまったので益田は率直に聞いてみた。
 「失礼ですが、そのーーーご主人の素行調査ですか?」
ビクリ、と今田夫人は肩を揺らした。
 「---ええ、お願い致したく存じます。」
と、口籠る。この夫人の態度から察するにどうやらまともな依頼ではないらしい。
 「その、失礼ですがーーーご主人が奥様に対して不義理をなさっていると、そう受け取って宜しいのでしょうか?」
夫人は益々俯いて
 「仰る通りです、主人の・・・その帰りが遅くて浮気を疑っていたのですが・・・」
ああ、何だやっぱり浮気調査だ。
 「成程ーーー決定的な証拠がないということですな」
和寅が茶を淹れて持って来た。テーブルの上に置いて依頼人に勧めると益田の横に座る。好奇心たっぷりの視線で依頼人を見て居る。相変わらず下世話だ。
 「そうです、その・・・証拠を・・・その・・・押さえて頂きたいと・・・」
何だか口調がはっきりしない。こういった依頼の場合、大抵は依頼人は怒り心頭で宥めるのが大変なのだが、どうも様子がおかしい。そう思いながらも益田は質問を続ける。
 「お相手の方は、見当がつかれておられるのですか?」
びくっ、と夫人は身体を揺らした。何かを言い淀んでいる。
 「いえーーーそれが、特定の相手という訳では無くーーーとある場所で、その、複数の方と・・・」
 「ははあ、悪所通いですな、花街とか赤線とか、女性を買う様な・・・あ、私はここの秘書でして」
和寅が口を挟む。夫人は和寅をちらりと見て、又、目を伏せた。
 「悪所・・・なんでしょうね・・・・・」
と、言い淀む。SMクラブか何か、後ろめたい場所なんだろうか?夫人はハンカチを散り出して口元に当てる。余程言いにくい場所らしい。
 「あの・・・ッ本当に潜入捜査が得意なんですか、益田さん」
益田は調子よく己の胸を拳でどんと叩き
 「任せて下さいッ僕ァ得意中の得意ですよ、ゴミ箱の中でも潜入出来ます!便所の中でもご主人の素行を見守りますよ!」
 「ゴミ箱や便所の中かね、汚いなあ、君は」
和寅は呆れた顔で益田を見る。
 「それでは、お願いしようかしら」
 「お任せください、どこでも調査致しますよ!」
夫人がその場所を告げると益田は立ち上がり
 「え、ええええええええーーー!?」
驚きと戸惑いの声を上げた。その途端、バタンと奥の扉が開かれた。
 「わはははははっ面白い!お引き受けしましょう!そこの方、このカマオロカに相応しい依頼だ!」
と、探偵が派手に登場した。


 「ううう、酷いですよう・・・どうして僕がこんな事・・・」
 「何言っている、カマのお前にぴったりな仕事じゃないか!マスカマが本物のカマになる日が来たのだ、わはははは」
益田は頭を抱え込んで泣いている。
 「金ちゃんに電話をしておいてやったゾ、全面協力してくれるそうだ、良かったな、カマ!」
 「良くないですッ何で僕がおかまにならなくちゃいけないんですか!幾ら二丁目でも他に潜入の仕方があるでしょうに」
榎木津は腕を組みながら探偵の椅子に腰掛けている。
 「何言ってんだお前、じゃあ、客のふりしてゲイクラブに潜入するのか?オカマ好きか男好きの振りしなくてはならんだろう」
 「それも嫌ですよぉ」
依頼内容は要するに、旦那が夜な夜な二丁目のゲイクラブに出入りしていて、どうやらよからぬ事をしている様なので、どうかその決定的な証拠を押さえて欲しいとの事だった。
 「それならカマの振りをした方が良いだろう、なあ、和寅」
 「ぐふふっ、先生の言う通りだよ益田君、ここは依頼人の為に一肌脱いで、女物の服を着て張り込みをしたらどうだね」
わはははははッと事務所内が笑いに包まれる。益田は居たたまれない。探偵閣下は
 「トリちゃんに写真機を借りてきてやろう、なんなら実家から持ってきてやっても良いぞ、何しろ証拠が必要だからな」
まずはトリちゃんに電話してやろう。と言って電話を掛け始めたのを見て益田は益々意気消沈する。それを見て和寅はぷくく。とまたもや笑う。
 「僕じゃなくても良いでしょうに、そうだ、和寅さんなんかスカート似合いますよ!和寅さんが女装して下さいよ」
 「和寅は駄目だ、女装しているインド人にしか見えないぞ、その点、お前はカマだから立派なカマになれるッ」
鳥口に電話を掛け終えた榎木津が仁王立ちで益田の前に立ちはだかる。
 「僕はカマじゃないですよお」
榎木津は大きな目を半眼にして益田をじっと見つめる。
 「カマじゃないか。」
 「ううっ・・・・」
耐え切れなくなって両手で顔を覆う。昨夜この探偵閣下にしたことを思えば何も言えなくなる。榎木津の視線は昨夜の事を咎めて居る様に思えるのだった。
 
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益榎 | コメント(0) | 2018/08/15 13:26
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