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マシュマロ 5話

 「さあ、トリちゃんの仕事場に行ってから新宿だ!忙しいなあ」
 「何でこんな時だけ張り切って仕事するんですかあ、嫌ですよお!」
 「四の五の言わないで、さっさと行くゾ!」
榎木津はそう言って益田の襟首を掴み、引き摺って事務所から出る。やめてーいやだあーと叫びながら益田は引き摺られて行った。事務所内は台風が去った後の様な静けさだ。
 「益田君が来てから我が探偵事務所は騒がしくなったなあ」
と和寅は呟いて、お勝手に引っ込んだ。


新宿二丁目ーーー一見すると普通の街並みだが、どこか余所者を拒む様な雰囲気がこの街にはあった。
探偵は上下支那服で下は黒いズボンだが、上は派手な赤地に白の牡丹の花をあしらった服を着ている。目立つ格好だと思ったが割とこの街の雰囲気には馴染んで見えた。そこかしこに派手な花柄の模様を着た、恐らくソッチの人だと思われる人達がたむろしている。服装は兎も角
 「何で黒眼鏡にマスクなんですか?目立ちますよ」
 「カマ避けだ。僕は何故か昔からカマに言い寄られる。だからこれは必需品なのだ。」
はあ、と益田は納得したかどうか分からない返事を返す。確かに男女問わず寄って来られる容姿をしているので仕方が無いだろうが。
 「何で榎木津さんまでこんな所に来るんです?調査はしない主義なんじゃないですか、調査なら僕一人で十分でしょうに」
 「何言ってるんだ、マスカマがカマになる所が見たいじゃないか、そんな面白いものを僕に見せないつもりか?」
はあ、と益田は深い溜息を吐く。
バーや、クラブが点在して居て、何となく怪しげな雰囲気を醸し出している。こんな所に潜入するのかと考えると逃げ出したくなる。
 「ここだ、マスカマ、金ちゃんの店だ、さあ、入るぞ!」
バーが並んでいる一角に「BAR金ちゃん」とピンク色の文字で書かれた看板が目に入る。それ以外は至って普通のありふれた作りの店だ。扉を勢いよく開けて探偵は店に入り込む。
 「金ちゃん、わははは。お世話になりに来たゾ!」
 「あら、探偵ちゃん久し振りねえ、何、その黒眼鏡とマスクは?綺麗な顔が見えないじゃない」
女装をした金ちゃんがカウンターから出て来た。内装も至って普通の作りである。奥が座敷になっているので店舗兼住居のようだ。
 「何をしているマスカマ、早く入る!」
 「は、はあ・・・」
バーの扉の前で益田はおろおろしている。前回のオカマ騒動の時に金ちゃんにはお世話になってはいるのだが。
 「あら、益田ちゃん、あたしの事見捨てて逃げた事なんてもう、気にしてないわよ、さあ、こっちにいらっしゃい」
そう言うと、益田の腕を引っ張り、中へと引き入れた。
 「嫌だあ僕は女装なんてしないんだあ」
 「何言ってんの、だらしないわねえ、ここまで来たのなら腹くくりなさいよぅ」
 「そうだぞ、カマオロカ、お前男だろう、晴れてカマになれ!」
何滅茶苦茶な事を言ってんだこのおじさん達は!
 「わああっ」
金ちゃんに着ていた背広を脱がされて更に下着まで脱がされた。代わりに女性物の下着を穿かされて益田は泣く。
 「ううう、何で下着まで・・・そこまでする必要ないじゃないですかあ」
金ちゃんは益田の胸に詰め物をし乍ら
 「見られた時に男物穿いていたらカマじゃないとばれるわよ」
そう言いながら手早くレースの付いたブラウスとピンク色のスカートを穿かされる。
榎木津はわははは。と始終笑いっぱなしだ。
 「さあ、次はお化粧ね、あら、綺麗な肌しているじゃない」
カウンターの椅子に座らされて、化粧箱から白粉を取り出して金ちゃんは益田の顔面に塗りたくる。
げほっごほっと白粉の粉に益田は咽る。
 「あらあら、化粧映えするわねえ、これは腕が鳴るわ」
つけ睫毛を付けられて、ううう、と益田は唸る。眉墨や紅を差し、金ちゃんは満足そうに益田の顔を眺める。
長い前髪は髪留めで左右に分けておでこを全面に出すとこめかみの片方だけに薔薇の花をあしらったピンクの髪飾りを付けられる。
 「出来たわ、見て、探偵ちゃん、可愛いでしょ」
 「おおっイイぞ!流石は金ちゃん!可愛くなったぞ!」
姿見を持ってこられて益田は驚愕する。若い頃の母親そっくりだ。吊りがちの目も切れ長な目元になって居て、中々色っぽい女になっている。ここまで完璧にされてしまっては益田は居たたまれない。
 「ちょ、写真撮らないで下さいよ」
鳥口から借りたライカで榎木津は写真を撮っている。
 「ちゃんと調査をした証拠が必要だろう、僕はお前の協力をしてやっているのだ、わははは。」
はあーと本日何度目かの深い溜息を吐いて、益田は女装姿で本題へと話を変える。写真を見せて
 「これが、今田勇さんです、どうですか?この界隈で見かけた事あります?」
金ちゃんは頬に手を当てて
 「ああ、知って居るわよ、ここの三軒先のゲイクラブに最近出入りして居るわよ。銀縁眼鏡の一見真面目そうな男だけどーーーこの人とんでもないわよ」
 「へっ?何がです?」
 「女装した男の子・・・オカマね、特に益田ちゃん、あんたの様な若い子が大好きで、そこの出入りしている店のママも困った客だとぼやいていたわよう、お店の若い子やお客にいやらしい事をしてくるって」
 「うわあッ」
とんでもない人物だった。
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益榎 | コメント(0) | 2018/08/16 14:05
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