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マシュマロ 6話

 「益田ちゃん可愛いから心配だわあ」
 「カマオロカが襲われたらちゃんと写真を撮って記念に残してやるから安心しろ。」
探偵閣下は楽しそうに益田の横に座り、ライカを弄っている。
 「ははは・・・僕にそんな魅力ありませんよ、それにそんな目に遭う前に逃げますって」
 「お前なんか、その何とかという男に襲われればイイ」
 「酷いですよう、何でそんな言い方するかなあ」
電話をしていた金ちゃんが
 「ゲイクラブのママには話を付けておいたから、直ぐに益田ちゃん向かって頂戴」
そう言って嫌がる益田を金ちゃんは引っ張って店を出た。


「クラブ桃」と書かれた看板が店先にぶら下がっている。白い塗料で塗られた木造の外観は一見すると普通の洋風のクラブだが中に入ると五人くらいの女装している所謂オカマの人達が広い店内に居た。ゲイクラブのママは男性とは思えぬ程の細身で目鼻立ちの整った美人だった。年齢は若いのかどうか分からない、ミステリアスな雰囲気の人だった。
益田はこの店の新しい従業員という事で潜入させて貰った。直ぐにカウンターの中に立たされた。
 「本来ならこんな事引き受けないんだけどねーーーあんた達はそういう趣味は無いでしょ?」
紙煙草を蒸しながらママは益田の横に立つとそう言った。
 「まあ、そうですね、ははは・・・」
愛想笑いをし乍らへらへらと笑う。益田は履き慣れない女物の靴に閉口しながら足元を見る。女性のサイズではないのだから特注品だろう。これも金ちゃんが用意してくれた。
 「ソッチの人ではないけど・・・ふうん、なるほどねえ」
ママは煙草の煙を益田に吹きかけて言った。益田は煙に咽る。
 「・・・あんた、あの男と出来てんでしょ?」
益田は驚いて更に咽た
 「な、何を言ってんですかーそんなわけないですよッ」
そう言ってテーブル席の端っこに座って居る黒眼鏡とマスク姿の榎木津と金ちゃんを見て、こちらの会話が届いていないことを確認して安堵する。益田は物凄い汗を掻いてハンカチで額を拭った。
 「恍けても駄目よ、あんたさっきからあの男見て溜息ばかり吐いているじゃない、それに何、その滝の様な汗!」
 「ううっ・・・・」
思わぬ人物に、しかも会って間もない人物に榎木津との関係を暴かれて益田は顔を赤くする。
 「---僕の片思いですよ」
口籠りながら答える。どうにも誤魔化しようがない相手だと踏んで話したのだ。
 「そう?でもあんた達ただならぬ関係だわよねえ」
 「いえ、そのーーー上手くいってないというか、色々とありましてですね」
額から新たに新しい汗が噴き出す。
 「何とも思われていないというかーーーあの人に取って僕は下僕でしかないんですよ」
 「愛しちゃっているのねえ」
灰皿に煙草を押し付けるとママは益田をじっと見つめる。その視線に益田は俯いた。
 「根ほり葉ほり聞くのも野暮よね。---まあ、上手くいくように祈って居るわ」
そう言うとママは益田の頭を撫でた。
 「さあ、開店よ、仕事なんでしょう?元気を出しなさい、あんたの大事な人も見て居るんだから頑張りなさいよ!」
 「はあ、頑張ります」
益田が腹をくくって気合いを入れると扉のドアベルがカランと鳴った。


 「新しい子かい?可愛いねえ」
 「ありがとうございまあす」
カウンター越しにベタベタと益田の手に触って来る男にうんざりし乍ら愛想を振りまく。ちらりと横目で榎木津を見ると肩を揺らしている。どうやら益田を見て笑っているようだ。流石にむっとして睨み付けた。テーブルに頬杖を付きこちらを黒眼鏡越しに見ているようだ。
なかなか今田氏は現れない。今夜は無駄足だったかも知れないなどと思いながらも新人のオカマを演じている。やがて、探偵閣下は飽きたらしく金ちゃんと何か話しているようだった。金ちゃんにちょっかい掛けられたらしく金ちゃんの足に蹴りを入れている。


ケケケと下僕の笑い声がする。何だかんだ言いながら益田はこの状況に慣れて来たらしく調子良く客と喋っているようだ。益田にして見れば単にヤケクソになっていただけの話なのだが。
 「あら、探偵ちゃん、ご機嫌ナナメね」
 「フン、面白くないぞ、あのバカカマオロカ、どんどん調子に乗ってきたじゃないか、カマとして生きるつもりなのかと思うね、もうあんなカマはクビだクビ。」
マスクを外し、紙煙草を口にすると金ちゃんは燐寸を擦って火を付けてやる。
 「気になるのね、益田ちゃんの事、可愛いわよねえ、探偵ちゃんが心配になるのも解るわ」
榎木津は煙草をポロリと落とす。
 「な、何で僕があんな馬鹿を可愛いだの思わなくちゃいけないのだ、心配なんてしてナイ!」
テーブルの上に落ちた煙草を拾ってやり金ちゃんは笑う。
 「素直じゃないわね、探偵ちゃん、うふふふ」
榎木津は煙草を受け取って口に咥え、横を向く。
カラン、とドアベルの音がした。
 「あら、来たみたいね」
金ちゃんが声を潜めながら言う。
銀縁眼鏡の男ーーー今田氏だ。益田は身体に緊張が走る。
 「いらっしゃーい」
 「やあ、ママ、今日も綺麗だねえ」
真面目そうな外見とは裏腹に、にへら、と笑う男の姿に益田は内心、うわあ、助平そうなおっさんだと思った。益田を見るなりにやにやと笑っている。
 「おや、可愛いねえ、君、新人かい?」
 「りゅ、龍子でーす、宜しくお願いしまあす」
 「龍子ちゃんか、良い名前だね、こっちで一緒に飲まない?」
テーブル席へとぐいぐいと腕を引っ張られる。どうやら益田を気に入ったらしい。
まずいぞーーーいや、チャンスか。
席に着くと肩を抱き寄せられるーーーひいいッ!
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益榎 | コメント(0) | 2018/08/17 12:25
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